“情報を一時的に覚えながら、それを使って考えたり行動したりする脳の働き” のことです。
脳の “一時的な作業スペース“
ワーキングメモリ(Working Memory)とは、単なる “記憶” だけではなく、
- 覚えておく
- 理解する
- 同時に処理する
という “覚える+考える” 機能が合わさっています。
心理学では、認知心理学者の Alan Baddeley が提唱したモデルがよく知られています。
このモデルでは、ワーキングメモリは主に次の仕組みから成るとされています。
音声ループ(言葉の記憶)
聞いた言葉を 短時間保持する仕組み
例えば、
- 先生の説明を覚える
- 指示を聞いて行動する
視空間スケッチパッド(見た情報の記憶)
位置・動き・形などを覚える仕組み
例えば、
- ボールの軌道を見る
- 並ぶ位置を覚える
中央実行系(司令塔)
情報を整理し、どこに注意を向けるかを決める働き
例えば、
- 話を聞きながら動く
- 複数の情報を整理する
子どもに起きること(ワーキングメモリが小さい場合)
ワーキングメモリの容量には個人差があります。
容量が小さいと、例えば次のようなことが起きます。
- 指示を途中で忘れる
- 複数の指示が処理できない
- 話を聞きながら動作を理解できない
- 途中で何をするのか分からなくなる

これは “やる気の問題ではなく、脳の処理容量の問題” です。
教育心理学では、「認知的負荷(Cognitive Load)」という考え方でも説明されています。
運動指導の現場で起きやすいこと
運動指導は実は、ワーキングメモリ負荷が非常に高い活動です。
子どもは同時に、
- 話を聞く
- 動きを理解する
- 体を動かす
- 周囲を見る
- 順番を待つ
という、複数処理をしています。
そのため次のようなことが起きます。
よくある場面:
指導者(先生):
「並んで、そして笛が鳴ったら走って、コーンを回って戻ってきて、次の人にタッチ」
子ども:
「え?どこまで?今?」

これは、理解していないのでは無く、覚えきれないのです。
運動指導で気を付ける具体例
① 指示は “3つ以内”
❌ NG例
「並んで、笛が鳴ったら走って、コーンを回って、戻ってきて、次の人にタッチ」
⭕️ OK例
①並ぶ
②笛で走る
③コーンを回る
② “見せる” を先にする
言葉よりも、動きのモデル。
例えば、
- 先生が実演
- 上手な子が見本
視覚情報は、ワーキングメモリの負荷を下げます。
③ 環境に “ヒント” を置く
ワーキングメモリは、外に置くと楽になります。
例えば、
- コーンでコースを見える化
- 足形マーク
- 色テープ
④ 説明しながら並ばせない
これは非常に多いです。
❌ NG例
並ぶ → 説明 → スタート
並んでいる間に、ワーキングメモリが消えます。
⑤ “一回やってみる” を入れる
言葉理解より、体験記憶。
実は大人も同じで、
- 初めてのダンス
- 新しいスポーツ
を体験した時は、「え?もう一回お願いします」になります。
つまり、子どもだけの問題ではありません。
指導者の視点
子どもが、
- 忘れる
- 動けない
- 途中で止まる
それは、“理解不足ではなくワーキングメモリの渋滞” の場合があります。
子どもが動けない時は、”聞いていない” のではなく頭の中の作業机がいっぱいなのかもしれません。


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