〜 ワーキングメモリの視点から 〜
運動指導の現場で、よく見かける場面があります。
- 列から出てしまう
- 前の子との間が詰まったり離れたりする
- 途中で別の方向を向く
- 何度声をかけても整列が続かない
そのとき私たちはつい、
「ちゃんと並んで」「前を見て」「もう何回言えば分かるの」と、声をかけてしまいます。
しかし、この “並ぶ” という行動は、実は子どもにとってかなり複雑な “認知活動” です。
そしてそこに深く関わっているのが “ワーキングメモリ” なんです。
並ぶ時、子どもの頭の中では何が起きているか?
子どもは並んでいる間、同時に多くの情報を処理しています。
例えば、
- 自分の立つ位置
- 前の子との距離
- 後ろの子の存在
- 先生の指示
- 周囲の音や動き
- 次に何が始まるのか
つまり並ぶことは、“「立つ」だけではなく、複数の情報を同時に保持し続ける作業” なのです。

これはまさに、“ワーキングメモリの働き” です。
ワーキングメモリが小さいと起きること
ワーキングメモリの容量には個人差があります。
容量が小さい場合、並ぶ場面では次のようなことが起こりやすくなります。
前の子との距離を覚え続けられない
少し時間が経つと “どれくらい離れていたか” が、頭の中から消えてしまいます。
すると、
- 近づきすぎる
- 離れすぎる
という状態になります。
指示を保持出来ない
先生が、「前にならえ」と言ったとします。
しかし数秒後には、“その言葉の記憶が消える” ことがあります。
すると、
- 腕を下ろす
- 横を見る
- 動き出す
ということが起きます。
待っている間に目的を忘れる
並ぶ時間が長いほど “何のために並んでいるのか” が、ワーキングメモリから消えてしまいます。
その結果、
- 列を離れる
- しゃべり出す
- 別の遊びを始める
という行動が出ます。
“並べない子” では無く “情報を保持し続けるのが難しい子”
ここで大切なのは、“態度の問題として見ないこと” です。
その子は、並びたくないのでは無く、“並び続けるための情報を保持できない” 可能性があります。
運動指導で出来る具体的な工夫
位置を見えるようにする
ワーキングメモリは、外に出すと楽になります。
例えば、
- 足形マーク
- カラーテープ
- フープ

“ここに立つ” が見えると、覚え続ける必要が無くなります。
並ぶ時間を短くする
並ぶ時間が長いほど、ワーキングメモリは消耗します。
可能なら、
- 説明を短くする
- すぐ動く
- 小グループにする
と効果があります。
距離を身体で覚えさせる
言葉よりも体感です。
例えば、「手を伸ばして前の子の肩に届かないくらい」。
身体感覚にすると、記憶の負担が減ります。
並び方を一度 “体験”させる
説明よりも “一度やってみる”。これだけで理解が大きく変わります。
指導者の見え方が変わるとき
子どもが列から出た時。
それは、
- ルールが守れない
- 落ち着きがない
のでは無く、
もしかすると、“頭の中の作業机がいっぱい” なのかもしれません。
そして、こう考えると指導の言葉が少し変わります。
「ちゃんと並んで」では無く、「ここに立つと分かりやすいね」。
並ぶことは単純な行動のように見えて、実は “認知の力と環境の支えで成り立っている行動” です。

子どもが並べない時、それは “出来ない子” なのでは無く、私たちがまだ支え方を見つけていないだけなのかもしれません。


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