〜 運動指導の見え方がかなり変わる(2)〜
『 指導者が知っておきたい身体と心の背景 』
運動の現場に立っていると、そう感じる子に出会うことがあります。
ボールがうまく捕れない。
よく人や物にぶつかる。
説明を聞いても動きが止まってしまう。
みんなと同じ動きが難しい。
こうした姿を見ると、”やる気が無い” “運動神経の問題” と思われてしまうこともあります。
しかし実際には、“発達特性による背景” が関係していることがあります。
発達特性のある子どもが運動を苦手とする背景には、主に “5つの要因” があると言われています。
それは、
- 身体のイメージ(ボディイメージ)
- 協調運動
- ワーキングメモリ
- 感覚処理
- 失敗経験
といった、“身体、脳、心理の複合的な要素” です。
これらを理解すると、子どもの行動の見え方は大きく変わります。
“出来ない子” ではなく、 “違う難しさを抱えている子” として見えてくるからです。
実は、発達特性のある子どもには “運動が得意な子” と “とても苦手な子” の両方がいます。
この差は、努力や性格ではなく、“脳の働き方の違い” から生まれることが多いです。
今回は、発達特性のある子どもが “なぜ運動を苦手とするのか?”
その背景にある “5つの理由” を見ていきたいと思います。
発達特性のある子が運動を苦手とする理由
身体のイメージがつかみにくい?
人は無意識に、
- 自分の腕の長さ
- 足の位置
- 身体の動き
を感じながら動いています。
これを、“身体図式(ボディイメージ)” と呼びます。

発達特性のある子の中には、この感覚が弱い子がいます。
その結果、
- ボールをうまく捕れない
- 距離感が分からない
- よくぶつかる
といったことが起きます。
協調運動の難しさ?
体の複数の動きを同時に調整することを、“協調運動” と言います。
例えば、
- 走りながらボールを見る
- 手と足を別の動きで動かす
- リズムに合わせる
こうした動きが難しい子もいます。
これは、“発達性協調運動症(DCD)” と呼ばれることもあります。
ワーキングメモリの負担?
運動の指示には実は、かなり多くの情報があります。
例えば、「ボールを持って、コーンを回って、次の人にパス」。
この3つの指示を、“頭の中で保持しながら動く” 必要があります。
発達特性のある子は、“ワーキングメモリ(情報を一時的に覚える力)” が弱いことがあり、
- 説明を忘れる
- 動きが止まる
- 違う動きをする
ことがあります。
『 ワーキングメモリとは? 』
https://www.yocchanblog.com/working-memory/
感覚処理の違い?
運動には、
- 視覚
- 前庭感覚(バランス)
- 固有感覚(身体の位置)
など多くの感覚が関係します。
発達特性のある子は、これらの情報処理が、
- 強すぎたり
- 弱すぎたり
することがあります。
例えば、
- ブランコが怖い
- 回ると気持ち悪い
- 逆に回り続ける
といった反応です。
失敗経験の積み重ね?

これは心理面です。
運動が苦手だと、
- 笑われる
- 比べられる
- 怒られる
経験が増えます。
すると、“運動そのものを避ける” ようになります。
そうすると、さらに経験が減り、差が広がります。
ここが運動指導者の大きな役割

運動指導の現場に立つあなたは、実は、この悪循環を断ち切れる存在なのです。
大切なのは、“出来る前提” で環境を作ること、です。
例えば、
- ボールを大きくする
- 距離を短くする
- 回数を減らす
- 成功率を上げる
すると子どもは、「出来た!」という経験を持てます。
実はもう一つ、大事なことがあります
多くの運動指導者が、ある共通の瞬間を経験しています。
それは、“この子、急に伸びた” という瞬間です。
発達特性のある子は、ある条件がそろうと “急激に伸びることがあるんです”。
おわりに
運動が苦手に見える子どもたちの姿の裏には、さまざまな理由があります。
身体のイメージのつかみにくさ、協調運動の難しさ、ワーキングメモリの負担、感覚の感じ方の違い。そして、これまで積み重なってきた失敗経験。
こうした背景が重なると、子どもはいつの間にか “運動が苦手な子” として見られるようになります。

けれど、それは能力の限界ではありません。多くの場合、”経験の積み方や環境の違い” です。
ボールを少し大きくする。
距離を少し短くする。
回数を少し減らす。
ほんの少し環境が変わるだけで、子どもの表情が変わる瞬間があります。
そして運動の現場では、ときどき指導者が驚くような出来事が起こります。
それは、“この子、急に伸びた” という瞬間です。今まで出来なかった動きが、ある日ふと、出来るようになる。発達特性のある子どもには、ある条件がそろうと、成長が一気に表れることがあります。
その瞬間に立ち会うと、多くの指導者が気づきます。
子どもが変わったのではなく、“伸びる準備が、ずっと進んでいたのだ” ということに。

そしてもう一つ、同時に起きている変化があります。
それは、子どもを見る “大人のまなざし” です。
もしかすると「この子、急に伸びた」という瞬間は、子どもの成長と同時に、“大人の見方が変わる瞬間” なのかもしれません。
次回は、“発達特性のある子が、急に伸びる瞬間” をお話しします。これは、長く現場にいる指導者ほど「あるある」と感じる話です。若いあなたにも、ぜひ読んでいただきたいです。
そこには、とても興味深い理由があります。


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