〜 ワーキングメモリの視点から 〜
運動指導の現場では、こんな状況に出会うことが多々あります。
説明をしている最中に、
- 体を動かし始める
- 周りを見回す
- 友達に話しかける
- 別の方向を向いてしまう
そして説明が終わると、
「今、何をするんだっけ?」と聞いてきます。
その時私たちはつい、「ちゃんと聞いて!」「今、説明してたでしょう!」と言いたくなります。
けれども、もしかするとその子は “聞いてない” のでは無く、”聞き続けることが難しい” のかもしれません。
その背景の一つにあるのが、“ワーキングメモリ” です。
説明を聞くとき、子どもの頭の中で起きていること
説明を聞くという行為は、実はとても高度な認知活動です。
子どもは同時進行で、
- 話を聞く
- 内容を理解する
- 順番を覚える
- 体の動きを想像する
- 周囲の刺激に注意を取られ無いようにする
という多くのことを処理しています。
つまり説明を聞くことは、“耳で聞く” だけではなく、”頭の中で情報を一時的に保持し続ける作業” でもあります。

ここで働いているのが、“ワーキングメモリ” です。
ワーキングメモリが小さいと起きること
ワーキングメモリには容量があります。そしてその容量には個人差があります。
容量が小さいと、説明の場面では次のようなことが起こりやすくなります。
話の途中で情報が消える
説明が長くなると、最初に聞いた内容が頭の中から消えてしまいます。
その結果、
- 最後の部分しか覚えていない
- 全体の流れが分からない
ということが起こります。
言葉と動きを同時に処理出来ない
運動指導ではよく、「ヨーイ、ドン!で走って、コーンを回って戻ってきて、次の人にタッチ」のような説明があります。
しかしこの説明は、
- 条件(ヨーイ、ドンで)
- 行動①(走る)
- 行動②(回る)
- 行動③(戻る)
- 行動④(タッチ)
という複数の情報を、同時に保持する必要があります。
ワーキングメモリの負荷は、かなり大きくなります。
周囲の刺激で情報が消える
運動指導の現場は刺激が多い環境です。
- ボール
- 友達の動き
- 音
- 先生の声
注意が一瞬外れるだけで、頭の中にあった説明が消えてしまうことがあります。
“聞けない子” では無く “保持し続けることが難しい子”
ここで大切なのは、行動の見え方を少し変えることです。
その子は説明を無視しているのでは無く、説明を頭の中に保持し続けることが難しいのかもしれません。
運動指導で出来る工夫
説明は短く区切る
長い説明より、短い指示を重ねる方が理解しやすくなります。
例えば、
①ここに並ぶ
②ヨーイ、ドンで走る
③コーンを回る
言葉より “見せる”
動きは、視覚情報の方が理解しやすいです。
- 指導者のデモンストレーション
- 上手な子のお手本
これだけで理解が大きく変わります。
一度やってみる
説明のあとに「一回やってみよう」と実践することで、言葉が体験として記憶されます。
説明は “動く前”にもう一度
時間が空くと、ワーキングメモリの情報は消えます。

動く直前の、“短い再確認” が効果的です。
指導者のまなざし
子どもが説明を覚えていない時
それは、
- やる気が無い
- 集中して無い
ということでは無く、“頭の中の作業スペースがいっぱいだった” だけかもしれません。
子どもが動けない時、その理由を “態度” では無く “認知の働き” から見てみる。
その視点を持つだけで、指導の言葉や環境は少し変わります。
そしてその変化が、子どもにとっての “分かりやすさ” につながっていきます。


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