『 「どうしてボールが捕れないの? 運動神経が悪いのかな?」 』
〜 見え方がかなり変わる (3)〜
「どうして、この子はボールが捕れないんだろう?」
運動指導をしていると、そんな疑問を持つことがあります。
- ボールを目で追っている
- 捕ろうともしている
- でも、手を出すタイミングが合わない
- ボールが身体に当たってしまう
- ボールが少し横にずれただけで、身体を動かして追うことが難しい
そんな姿を見ると、
- 「運動が苦手なのかな…?」
- 「運動神経の問題なのかな…?」
- 「もっと練習すればできるようになるのかな…?」
と考えてしまうかもしれません。

けれど、ボールを捕るという動作は、
単に「ボールを見る」だけではできないんです。
私たちは無意識のうちに、
- 自分の身体は今どこにあるのか
- ボールとの距離はどのくらいなのか
- どこに手を出せば届くのか
- 身体をどちらに動かせばいいのか
を感じ取りながら動いています。
その背景にある大切な力の一つが、『ボディイメージ (身体のイメージ)』です。
発達特性のある子どもの中には、
👉 結論:自分の身体の位置や動きを感じ取ったり、
身体の動きと外から入ってくる情報を結びつけたりすることに、
難しさを感じていることがある。
すると、
- ボールが捕れない
- よく人や物にぶつかる
- 距離感がつかみにくい
- ジャンプや投げる動作がぎこちない
といった動作につながることがあります。
もちろん、こうした姿だけで発達特性があると判断することはできません。
👉 大切なのは、
「できない」という結果だけを見て、子どもの能力を決めつけないこと。

「なぜ、この子は難しいのだろう?」
そう考えると、
大人 (指導者・保護者) にできることが見えてきます。
- ボールを大きくする
- 距離を短くする
- ボールを転がすところから始める
- 身体を動かす範囲を小さくする
そして、「できた!」 という経験を積み重ねる。
ほんの少し環境を変えるだけで、子どもの動きが変わることがあります。
今回は、
『ボールが捕れない』という一つの姿を、『ボディイメージ』という視点から考えてみます。

「運動が苦手な子」ではなく、「今、自分の身体と動き方を学んでいる子」
として見ることができるようになると、大人の、運動指導の景色が変わり始めます。
▶︎ 人は、何歳になっても学び直せます。
私は30年以上現場で指導していますが、子どもに対する見方を間違えていた時期がありました。
『ボールが捕れない』理由とは
今から、少しだけ不思議なことを考えてみてください。
目を閉じて、右手を肩の高さまで上げてみます。

鏡を見なくても、
今、右手はこのあたりにあると、なんとなく分かりますよね。
目を閉じたまま、膝を曲げることもできます。
- 自分の足がどこにあるのか
- 腕がどのくらい伸びているのか
- 身体がどちらを向いているのか
私たちは普段、こうしたことを意識せずに感じています。
だからこそ、
- 手を伸ばせば、この物に届く
- 少し身体を動かせば、人を避けられる
- このくらいの力でボールを投げれば、相手に届く
と判断できます。
👉 これは、私たちが自分の身体について、
ある程度の “地図” のようなものを持っているからなんです。

これを説明するときに使われる言葉の一つが、『ボディイメージ』です。
ただし、専門的にはボディイメージや身体図式には異なる意味合いがあり、
研究・臨床の分野によって使い方も少し異なります。
この記事では難しい定義にこだわらず、
👉 “自分の身体が、今どこにあって、
どのように動いているのかを感じ取り、動きに生かす力”。
という、子どもの運動を理解するための実用的な捉え方で考えていきます。
『見る』だけでは捕れないから
例えば、大人が子どもにボールを投げたとします。
子どもはボールを目で追います。ここまではできています。
ところが、ボールが近づいてくると…、手が出ない。
あるいは、手を出しても少し遅れてしまう。
「ボールを見て!」と声をかけても、なかなか捕れない。
こんなとき、私たちはつい、「もっとボールをよく見て!」と伝えたくなります。

しかし、子どもが困っているのは『見ること』だけではないんです。
- ボールがこちらに近づいている
- 自分との距離はどのくらいか
- あと何秒くらいで届くのか
- どこに手を出せばいいのか
- 身体をどちらへ動かせばいいのか
- どのくらい腕を伸ばせばいいのか
- ボールが手のひらに入る位置まで身体を調整する
実は、こんなに多くのことを同時に行っています。

つまり、『ボールを捕る』という動作は、かなり複雑な運動なんですね。
『手を出す場所』が分からないから
例えば、大人が子どもの胸の前にボールを投げます。
ところが子どもは、ボールよりかなり手前に手を出してしまう。
あるいは、ボールが右側に来ているのに、身体を動かさず手だけを伸ばしてしまう。
また、ボールが頭の上に来ると、身体を反らして避けてしまう。

こうした動作を見ると、
「どうしてそこに手を出すの?」と思ってしまいます。
👉 でも、その子の中では、
『そこに手を出せば届く』という身体の予測が、まだできていないんです。
これは、”やる気” の問題ではありません。”ふざけている” わけでもありません。
まして、”できるのに、やらない” とは違うんです。
『身体の地図』がつくれていないから

私は、身体のイメージを説明するとき、
『身体の地図』と考えると分かりやすいと思っています。
私たちの頭の中には、
- ここに手がある
- ここまでなら腕が届く
- 足はこの位置にある
- 身体をこのくらい動かせば避けられる
という、自分の身体についての『位置情報』があります。
👉 ところが、その『身体の地図』が、まだ、つくれていない子どもがいるんです。
すると、
- 人との距離が近くなりやすい
- 物によくぶつかる
- ボールとの距離がつかみにくい
- 手を出すタイミングが合わない
- ジャンプすると着地位置がずれる
- 身体をどのくらい動かせばいいのか分かりにくい
といった行動が見られます。
もちろん、これらの行動だけで発達特性があると判断することはできません。

子どもの発達には個人差がありますし、
経験不足や環境など、さまざまな要因が関係します。
👉 大切なのは、
「できない」という結果を見るのではなく、「なぜ難しいのか?」を考えること。
「できない…」を「できた!」に変える指導とは

では、どうすればよいのでしょうか?
👉 結論:ここで大切なことは、
“できる前提で環境をつくる” という考え方です。
例えば、いきなり通常通りの大きさのボールを使って、キャッチボールをするのではなく、
大きなボールを使う
大きなボールは、視覚的に捉えやすく、手を出す場所も分かりやすくなります。

まずは「捕れた!」という経験をつくります。
距離を短くする
“正しい距離から投げて、基本通り捕る” のではなく、
まずは手が届く距離から始めます。成功したら、少しだけ距離を伸ばす。

大切なのは、難易度を徐々に上げることです。
転がすところから始める
いきなり空中のボールを捕る必要はありません。
- 床にボールを転がす
- 両手で止める
- 少しだけボールを浮かせる
- 近い距離から投げる
というように、段階をつくることができます。

『捕る』という一つの動作を分解することで、
子どもが身体の動きを理解しやすくなります。
ボールを捕るために必要な感覚
「手を出して!」という指示だけでは、子どもにとって分かりにくい場合があります。
そこで、
- 「ボールのところまで身体を動かそう」
- 「一歩だけ動いてみよう」
- 「両手で大きなカゴをつくってみよう」
など、身体の動きを具体的に伝えてみます。

言葉だけで伝えるのではなく、
大人 (指導者・保護者) が実際に動きを見せることも、大きな助けになります。
ボールが捕れるようになるまでに大切なこと

ここで、もう一つ大切なことがあります。
それは、成功経験そのものが、次の動きをつくるということです。
- 「一度捕れた!」
- 「今のは届いた!」
と身体が感じる。
すると、
- このくらい腕を伸ばせば届く
- この距離なら大丈夫
という感覚が少しずつ蓄積されていきます。その経験が、次の動きにつながっていきます。

だから私は、「できないから練習する」ではなく、
「できる形をつくることで、次の力を育てる」いう視点が大切だと考えています。
大人 (指導者・保護者) が見逃してはいけない瞬間
運動指導をしていると、不思議な瞬間に出会うことがあります。
昨日まで、なかなかボールを捕れなかった子が、
ある日、「あれ? 捕れた」という瞬間を迎えるんです。
一度捕れると、二回目も捕れる。そして少しずつ距離を伸ばしていく。

大人としては、「急に上手になった」と感じるかもしれません。
でも、私は「急に!」ではないことも多いと思っています。
見えないところで、
- ボールを見る
- 身体を動かす
- 手を出す
- 距離を感じる
という経験を、少しずつ積み重ねていた。

“そしてある日、それらがつながった”。
だから、外から見ると「急にできるようになった」ように見えるんです。
「できない子」ではなく “まだ身体の地図をつくっている子”
👉 子どもがボールを捕れないとき、「運動が苦手な子」
と決めつけてしまうと、そこから先に見えるものが少なくなってしまいます。

でも、このように考えてみてください。
「この子は今、自分の身体とボールとの距離をどう感じているんだろう?」
すると、
- 少し距離を近づけてみよう
- 大きなボールにしてみよう
- まず転がしてみよう
- 一歩だけ動いてみよう
という、新しい指導のアイデアが生まれます。
これは、子どもを甘やかすことではありません。子どもが挑戦できる入口をつくることです。
そして、その入口から一歩踏み出せたとき、「できた!」という経験が生まれます。

その小さな「できた!」が積み重なり、少しずつ身体の感覚が育って、
やがて、”できなかった動き” が “できる動き” へ変わっていくんです。
おわりに
子どもがボールを捕れないとき、私たちはつい、
- 「もっとよく見て」
- 「ちゃんと手を出して」
- 「練習すればできるよ」
と伝えたくなります。
でも、その子にとっては、
- 「見る」ことも
- 「手を出す」ことも
- 「身体を動かす」ことも

私たちが思っているほど、簡単ではないんです。
- 自分の身体が今どこにあるのか?
- ボールとの距離はどのくらいなのか?
- どこへ手を出せば届くのか?
- どのくらい身体を動かせばいいのか?
そうした一つひとつを、その子は自分なりに感じ取り、試しながら覚えている途中なんです。

だからこそ、大人 (指導者・保護者) にできることがあります。
“できないこと” を何度も繰り返させるのではなく “できる形” に環境を変えてみる。
- 少し大きなボールにする
- 少し距離を近づける
- 転がすところから始める
- 一歩だけ動けば届く場所にボールを投げる
そして、
- 「今、捕れたね」
- 「さっきより近づけたね」
そんな小さな変化を、一緒に見つけていく。
すると、子どもの中に少しずつ、
“自分の身体をこう動かせばいい” という感覚が育っていきます。
そしてある日、
「この子、急に上手になったな」と感じる瞬間がやってきます。

でも、本当は「急に!」ではなかったんです。
👉 私たちが気づかなかっただけで、その子の中では、ずっと準備が続いていたんです。
- 一つの「できた!」
- もう一つの「できた!」
その小さな経験が積み重なって、ある日、動きとしてつながった。
私は、そんな瞬間が、運動指導のとても素敵なところだと思っています。

子どもを変えることが、大人の仕事ではありません。
子どもが持っている力を発揮できるように、環境を整えること。
そして、まだ表に出ていない小さな変化を見つけ、
「あなたは、ちゃんと前に進んでいるよ」と伝えてあげること。
それもまた、大人にできる大切な支援なのだと思います。

ボールを捕れなかった子どもを見て、「この子は運動が苦手なんだ」と決めるのか?

それとも、
「この子は今、自分の身体と動き方を学んでいる途中なんだ」と見るのか?
同じ子どもを見ていても、そこから見えてくる景色は、大きく変わります。
そして私は、その景色を変えられるのは、
指導の技術だけでなく、”子どもを見るまなざし” なんだと確信しています。

「できない!」は、終わりではありません。
その子が「できる!」を見つけるまでの、途中なんです。
この続きは、次の記事でさらに深くお伝えします。
次回は、“ぎこちない動きの正体|発達特性と「協調運動・DCD」” をわかりやすくお話しします。
子どもの “ぎこちない動き” には、運動神経だけでは説明できない理由があります。
ここを知ることで、あなたの指導の見え方がかなり深くなります。
😊 最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
▶︎ ここまで読んでくださった方には、ぜひ次の記事も読んでいただきたいです。
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